庭は鑑賞する場ではなく、楽しみを家族が体験出来る場、
実用性がある場であってほしいというのが私自身の考えです。
お客様にとって庭は家の次に身近な存在なので、無駄なスペースに
なることなく、実用的な庭をご提案させて頂きます。
お客様・ご家族にとって大切な庭をずっと守っていくために
力添えさせて頂く事が私の使命だと感じています。
庭と私の原点は、大阪にあった祖父の家でした。
夏休みに毎年、家族で祖父の住む実家に帰省していたので、
楽しみにしていました。祖父の家には、小さな家庭菜園があり、
アブラゼミが鳴き、朝採れキュウリを食べ、3時には縁側に座り
アイスを食べ、夜は花火をした家族の楽しい思い出があります。
その経験と思い出は、社会人になった今でも忘れることはなく、
色褪せない思い出として残っています。
社会人になって、祖父の家に行く機会が減り、祖父は入院して半分空家の状態になりました。
祖父が入院し、手入れをする人がいない庭は荒れ果てた姿に変わっていました。
自分がやるしかないと思い立ち、真夏に汗をかき、慣れないながらも剪定鋏で伸び切った庭木を
整えました。想像以上に家族や近所の方からお褒めの声を頂き、向いているかもしれない、という
思いが生まれました。これが最初の剪定経験となり、庭に向き合い始めたきっかけです。
私は約2年間の無職期間があり、人間関係に馴染めず退職。
再度行った就職活動では採用してくれる会社は皆無でした。
中でも食肉加工会社の見学と面接が鮮明に覚えています。
牛豚の屠殺場で血の池を見ましたが、それでも働きたいと
思いました。その時は、とにかく社会に復帰したい気持ちが
強くありました。そして2年間で誰にも必要とされない、
社会に居場所がない、と感じる事の辛さを知りました。
職業訓練校での長期実習の面接がある日の朝に祖父は
亡くなりました。祖父が大切にしていた庭を守っていく事が祖父が一番喜ぶと考え、面接を優先しました。
合否判定までは時間があったので就職活動をしました。
その時に採用してくれたのが千葉にある庭木メンテナンスの
会社です。私は就職して実践で学ぶ道を選びました。
初日から鋏を持ち、入社半年頃には単独でお手入れを担当させて
頂くこともありました。電話対応や見積り、お手入れ、精算まで
一人で黙々と作業をするイメージを持っていましたが、
お客様との距離が近い仕事だと知りました。
時に激励、時にお褒めの言葉を頂きながら知識を学び、
庭師として、たくさんの経験を積み重ねていきました。
当時のお客様から頂いた手紙は今でも私の宝物です。
東日本大震災の体験、強く独立を意識しました。
その日は休みで昼食後にコンビニに立ち寄った際に震災が
ありました。「今の状況では死にたくない」と思いました。
その時、独立を初めて考え決心するのです。
千葉のメンテナンス会社で指名してくださるお客様が
いることが自信に繋がり独立の後押しになりました。
お客様に愛され、独立を諦める理由はありませんでした。
独立から2年でありがたい事に「潮彩庭縁」は地域の繁盛店として150件以上のお客様に
ご支援頂き、毎日お庭手入れをさせて頂きました。同時に湘南の町並みが日々急速に変化
している事に危機感を覚えるようになっていました。住宅事情の変化、多くの新築戸建ては
庭がない。庭が減っていく事で自身の将来像が分からなくなりました。
庭はなくなるのか?必要ないのか?高齢のお客様がほとんどなので将来の仕事が不安でした。
潮彩庭縁でお世話になったお客様全員へ手紙を送り、
直接会いに伺い希望の方には信頼できる庭師を紹介しました。
多くのお客様から叱咤激励を頂きました。
その時に改めて、その庭の専属庭師がいなくなることは
そこにくらす家庭にとって大問題なのだと痛感しました。
これは絶対に手ぶらでは帰れないと強く心に誓いました。
かつて造園研修でご指導頂いた事がある造園会社を思い出し、
造園修行の希望を伝えました。
タイミングが合って、入門の許可を頂きました。
当時の私はやる気に溢れていました。草抜きなどの基礎を
学んでおりましたが、なかなか造園の機会に恵まれません。
現実は思ったようにいかず、甘くありませんでした。
まずは自分ができる事からやっていこうと思いじっくり話を伺いました。
ご依頼主は若いご両親にお子様3名です。綺麗な芝、木を植えたい、見た目をかっこよくなど、
庭で何を作りたいか、具体的なイメージを持っていました。しっかりと話し合いを行いながら、
木は見た目は良いですが、お子様の安全面には適さないという理由から追加の植栽は外しました。
家の中から外を見たくなるような、庭に出たくなるような
工夫をしました。庭師時代の経験で培われた時間と空間への
意識です。時間が経てば植物は成長し、人は老います。
お客様の立場で実用性がある場を、長期使用を見据えて
作るには庭と人が時間経過でどう付き合いを
変えていくのかを考える庭師の経験は重要だと感じました。
話は少し遡りますが、庭師になる前に、医療業界に営業として在籍していました。
その頃、専門で取り扱った印象に残る医療器具に「経腸栄養カテーテル」がありました。
「経腸栄養カテーテル」は口から食事が摂れない患者様のお腹に穴を開けてチューブを通して
胃に直接、栄養食を注入する為のものです。そのチューブをつけている患者様は自分の意思を
伝えられない方ばかりで、その管理を数人の看護師さんでしていました。
患者様にとって少しでも良い経腸栄養カテーテルを提供するために
病棟に入れてもらう為の信頼、心を開いて状況を教えて頂く信頼。
その信頼を得るために傾聴する力が不可欠だったのです。
そして看護師から伺う情報や、患者様の皮膚の状況を読み取り、
医師や看護師に提案をして改善へ向かって頂いていました。
4年間という経験でしたが、信頼される大切さを学びました。